アートジムミニエッセイ「夏の話」
- artgym
- 2 日前
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日本は温暖湿潤気候に分類されると地理で習ったのは遠い過去であるが、その語感が届ける柔らかで瑞々しい気候が、特に今年の夏は、日本からもはや消滅してしまったかのような気分にさせられます。
クーラーをつけなければ酷暑で命が危うい予感さえし、外出は時間帯に注意して紫外線・熱中症対策に精を出さねばならない状況です。
夏は、昔から、とても暑かった。でもどこかに「抜け」があったのです。早朝の爽快で凛とした空気、丸のままのスイカを冷やす細く出しっぱなしにした庭の水道の水、薄暮の中歩く繁茂した草に囲われた砂利道・・・。日中の暑さを埋め合わせるような、そんな「涼」が一日の中に点在していて、猛暑を乗り切る心の拠り所になっていたように思います。
そして夏は、昔から、儚かった。ふとした瞬間に死の匂いを感じてドキリとしたものでした。お盆に先祖を迎え送る。花火はまばゆいけれども一瞬で消える。8月15日前後には終戦のニュースが出る。夏休みは8月末で終わる・・・。
「何かの終わり」を胸の奥底で怖く感じながらも、年を追うごとに暑くなる夏に紛れてその感覚が消滅してしまうのは寂しくて、心の中でわざわざ追いかけ続けるこの感覚は・・やはり暑過ぎるせいでどこか常軌を逸しているのかもしれないとこっそり失笑しながら、御茶ノ水の坂道を今日も歩いて帰ります。
(教務/watanabe)