top of page
  • OCHABI

デッサンから学べる真の「観察力」とは?

更新日:2023年12月1日

こんにちは。コーチの境貴雄です。


artgymではロジカルデッサンのレッスンを受講している方が多いと思います。「モチーフを写実的に描いてみたい」「イラストを描くための基礎力を身に付けたい」「仕事でラフスケッチを描く技術が必要なため」など、さまざまな目的に応じてデッサンを学ばれていることでしょう。


どんな目的においても共通する、デッサンで最も大切なキーワードは「観察」です。レッスン中、コーチから「よく観察しましょう!」と指導されますが、「観察」はあまりにも当たり前の行為なので、何の疑いもなく「そうだよね、観察は大切だよね」と感じながら描いていると思います。


でも実はその「観察」という行為には、一筋縄では行かない、非常に複雑で奥深い、人間の認知に関わる要素が含まれていることはご存知でしょうか。その一例として、まずは下の画像をご覧ください。これはロシアの心理学者アルフレッド・ヤルブスが1967年に発表した認知心理学では有名な実験図です。※1

この図は、被験者の眼に実験器具を付けて「人間の顔」と「彫刻の頭部」をよく観察してもらい、眼球運動(視線の動き)を記録した実験の結果です。ご覧の通り、よく観察しようと努力しても人間の認知の性質上、目・鼻・口などの目立つパーツばかりに視線が集中してしまいます。これは人間が生き残るための進化の過程において、目・鼻・口の形や位置関係を注視することで、顔の表情による感情、個人を識別してきたことが理由のようです。



しかし、石膏デッサンを経験された方は分かると思いますが、目・鼻・口ばかりを観察しても、なかなか形が合わず、顔も似ません。つまり顔面の形に対して目・鼻・口の位置や大きさ関係、表面的な見た目だけでは把握できない皮膚の奥にある筋肉や骨格、服のシワの中に隠された人体の構造など、日常生活ではほとんど気にしないような形の変化をしっかりと観察することが必要になってきます。



静物デッサンでもコントラストが強い箇所や、派手なモチーフばかりを観察して描いてしまうと、全体のバランスが崩れてしまうため、パッと見では目立たないような微妙な色の差や、モチーフ同士の関係性も観察が必要になってくるのです。


これこそがデッサンを描くことで鍛えられる真の「観察力」であり、それぞれの関係性を吟味する「分析力」であり、最終的に正しい形へ導く「判断力」なのです。




ここ数年、話題になっている二重過程理論に話をつなげると、モチーフを「見る」という行為自体は、誰でも無意識にできてしまうことなので、システム1(直感的な速い思考)になりがちです。しかし先ほどの例のように、モチーフを「よく観察する」ためにはシステム2(論理的な遅い思考)が必要であり、それを鍛える手段としてもデッサンは有効なのです。


デッサンの経験を積み重ねることによって、あらゆる仕事や日常生活の意思決定において有効な、物事を「観察」し、「分析」し、正しい「判断」へ導くという思考力が発揮されるようになります。美大の入試でデッサンが出題される理由も、技術的な描写力だけではなく、真の意味で「観察力」のある人間が求められているわけです。



モチーフをよく観察するための手段として、ロジカルデッサンで掲げている6つの要素「形」「立体感」「パース」「光と陰」「質感」「色」を活用する、つまり「何はともあれ、観察が最も大切なんだよ」ということを念頭に置いて、これからもデッサンを学び、描き続けて、真の「観察力」を磨いていただければ幸いです。



※1 

2015年4月計算神経科学の最前線9(45):45 DOI: 10.3389/fncom.2015.00045  

ソースPubMed  ライセンスCC BY 4.0

参照

On the role of spatial phase and phase correlation in vision, illusion, and cognition -      Scientific Figure on ResearchGate. Available from: https://www.researchgate.net/figure/Examples-of-saccadic-eye-movements-from-Yarbus-1967-Left-the-eyes-of-the-observer_fig11_276065311 [accessed 3 Apr, 2023]


※2 

本文中のデッサンは、すべて境コーチが描いた参考作品です。



OCHABI artgymのロジカルデッサン詳細はこちら


bottom of page